卒FITを取り込むことで拡大する周辺ビジネス

前回の続きとして、様々な事業者が名乗りを上げる「卒FIT」ビジネスの狙いについてより掘り下げていきたいと思います。

一つ目としては、前回にお伝えした調達側のコスト固定という目的があります。
もちろんその調達電力は「環境価値付き」。
要するに「再エネを使っていますよ!」と堂々と公言してよい電力となります。
これらは調達力=バイイングパワーの小さな、規模が小~中の小売電気事業者にとっては大きなインパクトをもたらします。
もちろん積水ハウスのような規模大の事業者であってもメリットはあり、それは「RE100」ということにつながっていくのですが、これはまた別の機会にお伝えします。

もう一つ、卒FITビジネスをおこなう大きな目的があります。
それは「周辺ビジネスの拡大」です。

もともと日本の電力自由化は世界的に見ても珍しいほど、「異業種参入」の色合いが強くでています。
これは携帯事業を本業としている会社が、自社ブランドの電力を販売することでセット割をしているようなタイプのビジネスのことを指します。

アメリカやヨーロッパなど、エネルギー自由化が20年前から行われている国々では、「Gas&Pwoer」という言葉があるように、同じエネルギー事業者が自由化された電力業界に参入してくることは多々ありました。
しかし、まったくエネルギーとは関係の無い業界、携帯電話業界や住宅業界、旅行業界から、しかも本業の製品などとのセットとして電気を取り扱っている例は非常に珍しく、日本独特と言っていいでしょう。

この日本特有の電力自由化のビジネス構造が卒FITビジネスの盛り上がりに拍車を掛けています。
卒FITである需要家の余剰売電を取り込むことで、本業など「電力以外の事業」が拡大することを狙ったビジネスモデルが活発になっています。


自家消費をアップさせるには蓄電池設置が必須


この「電力以外の事業」の筆頭に上げられるのが、蓄電池ビジネスです。
日本の家庭向け蓄電池の歴史はまだ浅く、2011年の東日本大震災の後に一時注目されましたが、まだまだ普及していません。
ですが、近年の蓄電池価格の低減、そして改めての災害対策意識の高まりから蓄電池は注目されています。

これに加えて、卒FITとなる需要家の動向が絡んできます。
これまでFITによる余剰売電をおこなっていた需要家は、FIT価格が始まった2009年にPV(太陽光発電システム)を設置しました。
その時の余剰売電価格は48円/kWh、一般家庭が購入している電気(買電)は22~26円/kWhといったレンジですので、余剰電力はどんどん売ったほうが経済的メリットはありました。

しかし、FITが終了することで余剰売電価格は7円~10円/kWhとなると予想されています。
この売電単価になると、余剰電力を売ることよりもそのまま家庭で使用する(自家消費)するほうが、経済的なメリットは大きくなります。
なぜなら、自家消費によって22~26円/kWhで購入している電気(買電)の量を少なくできるためです。

そのため卒FITの需要家に対して、各事業者は「自家消費」を促し、そのためには蓄電池が必要となる、という販売戦略を選択することとなります。
太陽光発電システムで発電した電気のうち、その瞬間に自家消費できない電力量は蓄電池に充電し、夜間などの自家消費>発電量となる時間帯に放電するためです。

これが卒FIT需要家に対して、周辺ビジネスとして蓄電池の販売をおこなう、基本的な考え方です。



Cost Target of Battery



ただし、現在の日本で販売されている蓄電池は、20万円前後/kWh(電池容量)と、グローバルに見ても高めの価格となっています。
加えて工事費用がかかり、現時点(2019/03)の実勢価格は、6kWhタイプで150万円程度、10kWhタイプで200万円弱です。
近年、価格は下がってきては居ますが、太陽光発電パネル価格の急落に懲りた日本のメーカーは、価格の下がり方に関しても慎重になっており下落幅は大きくはありません。
世界標準である9万円/kWhの水準になるまではまだ数年かかると予想されています。


※このことは経産省配下のERAB(エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス)検討会 第5回(平成29年3月8日開催)の資料8:定置用蓄電池の価格低減スキームにも記載されています。



エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会(第5回)‐配布資料(METI/経済産業省)



この蓄電池価格は一つのボトルネックになります。
なぜなら、自家消費を促したとしても蓄電池の費用を10年程度で回収することはできないからです。
蓄電池を購入するにあたって少し計算をしてみれば分かることですし、蓄電池メーカー側も決して「投資回収ができる」と公言しません。
そのため、蓄電池販売という卒FITの周辺ビジネスは、経済性だけではない、災害時の安心や、買電量の平準化という別の切り口を謳い文句にビジネスを進めていく必要があります。


旧一般電気事業者は送配電網(グリッド)を使わせたい



ここまで説明をしてきた卒FIT周辺ビジネスの大きな柱である、蓄電池ビジネス。
このビジネスはいわゆるビハインド・ザ・メーター(BTM)と呼ばれる領域です。

電柱から、引き込み線があり、送配電事業者が設置するメーターがありますが、PVや蓄電池はそのメーターから住宅側にあります。PVで発電した電気を自家消費し、それでも余剰が出た場合には蓄電池に充電するという行為は、「メーターよりも住宅側=ビハインド・ザ・メーター」と呼ばれています。
このBTMはグローバルに見ても北米、ヨーロッパと言った自由化先進国において、近年新しいビジネスのキーワードの一つになっています。

しかし、送配電事業を持つ、旧一般電気事業者からすれば困ったことになります。
なぜなら、投資をして構築している送配電網を流通する電力量が減り、それはイコール送配電事業の収益減となるからです。
送配電事業は、発電した場所から需要地点まで電気を送る輸送料のような「託送料」というものが収益の柱ですので、総配電網を通る電気の流通量の減はそのまま事業衰退に繋がります。

そのため旧一般電気事業者としては、これら卒FIT+蓄電池ビジネスによる、送電流通量の減に歯止めを掛けたい意図があります。
そこで東京電力はこのような実証実験を始めています。


エネルギーとIoT技術を活用した「次世代スマートタウンプロジェクト」について|プレスリリース|東京電力エナジーパートナー株式会社



これは、PVで発電した電気を自家消費し、余ったものを蓄電池に充電するのではなく、そのまま送配電網へと戻す(逆潮流)ことで、その逆潮流電力量を「仮想的」に蓄電したとみなすものです。
仮想的に蓄電した電気は、リアルに設置している蓄電池と同様に別の時間帯に使用する(≒放電)することができます。さらに送配電網という「電気を使う場所には、すべてつながっている」という特性を活かし、蓄電した電気を「別の場所で使う」ということもできます。

例えば、実家のPVで発電し余った電気を、一人暮らしの息子のマンションの電気へと充当することができる、ということです。
このサービスをすることにより、旧一般電気事業者側は、卒FIT需要家の新電力への流出を防ぎ、かつ送配電網の電気流通減を防げるということです。
さらに現状の蓄電池価格を鑑みれば、需要家にとっては「蓄電池への投資(キャッシュアウト)が必要ない」という点では大きなメリットでもあります。
ただし、蓄電池の現時点の最大メリットである「災害時の安心」という点は享受できません。災害時に停電になる、ということは送配電網の機能がストップしているからです。

※なお、この実証実験は東京電力エナジーパートナーという小売電気事業者が実施しており、送配電事業者ではありません。しかし、東京電力はホールディングス制を取っていますので、事業区分ではなく「保有アセットの活用」と言う視点で見ての解釈です。

新電力のBTM VS 旧一般電気事業者という構図



このように、卒FIT需要家を取り巻く周辺ビジネスは、活況を呈してきています。
特に新電力が狙うBTMと、旧一般電気事業者の送配電網という構図は、コンセプトが真っ向から対立しており、電力自由化によって一極支配、独占事業が崩れるかどうかのせめぎあいは必至でしょう。


Structure of new retailer VS Utility




これから、初めての卒FIT需要家が出てくる秋口までにこの競争環境は更に本格化していきます。2019年の夏は激しい戦いとなるでしょう。

次回は、更にその先のビジネスとして有望視されているVPP(バーチャル・パワー・プラント)について解説をしたいと思います。






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