前回は、卒FITビジネスを始めるための事業インフラの準備ということで、SWのプロセスや、SWの可能日、また買取のための発電BGの組成についてご説明しました。
ただ、まだ事業インフラが整ったばかり。これだけではビジネスを始めることはできません。なぜなら、卒FIT買取をおこなうにはまだ様々な課題が横たわっています。
今回はその課題にフォーカスした回となります。



どこに卒FIT対象者が現れるかが分からない




まず、最も大きな課題としては上げられるのが、この「卒FIT対象者がどこに現れるかわからない」ということでしょう。これはすなわち「ビジネスターゲットがどこから来るのか?どこに居るのか?どうやってアプローチすればいいか分からない」と言っていることに等しいからです。ターゲットに接触できなければ、ビジネスが始まるわけがありませんので、これは最大の課題と言ってもいいでしょう。

この事象がなぜ起きるかといえば、FITの契約、正式には「特定契約」と呼ばれる余剰電力の買取における旧一般電気事業者と一般家庭(発電者)との間で結ばれる契約は、旧一電の「小売部門」がほぼ独占しているからです。”ほぼ”と書いたのは、2017年4月の改正FIT法以降は、旧一電の「送配電部門」が契約先になっているから。小売部門との契約数と比べると非常に少ないですが、あることにはあるため、”ほぼ”という表現をしました。

有力な買取事業者になるであろう小売部門がこのFIT契約を独占しているということは、「誰が契約しているか」「いつ期限を迎えるか」等の情報は新電力側には開示されないことを意味します。これが送配電部門であれば、逆に公平性を保つために公表しなければならなくなると思いますが、契約の整理上、現在では競争関係の中で一方的な情報の偏りがある状態です。

なお、さすがにこの状態はまずいのか、資源エネ庁として「買取期間満了予定件数」の公表をしています。



売電事業者登録・2019年~2023年満了予定件数リスト|資源エネルギー庁




こちらでは市町村単位で、かつ100件~1000件の粒度で買取期間満了、いわゆる卒FITが何件あるのか、を探すことができるようになっています。
無いよりはマシですが、分布だけをもらっても卒FITビジネスの参入エリアを検討する材料ぐらいにしかならず、ですがそうは言っても、個人といち企業の契約=個人情報を他社に公開するわけにもいかない、というジレンマが感じられます。

また、この競争環境の不公平さは卒FITの制度を検討する小委員会でも取り上げられていますが、やはり個別契約を第三者が特定できるようにはできないため、これは解消されずにそのままいくでしょう。だからと言ってはなんですが、新電力が卒FIT対象が出てくるまえに策を講じられるようにと、旧一電の「買取メニュー公表」の時期を早め(2019年4月~6月に発表)に設定するなどの配慮があるのではないかと思います。


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出展:第8回  再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 資料3 住宅用太陽光発電設備のFIT買取期間終了に向けた対応


第8回 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(METI/経済産業省)



卒FITはFIT契約満了日の確認が最初のハードルとなる




「卒FIT対象者の特定」という第一関門を抜けたあとも、まだハードルが待っています。次は、「FIT期間満了日」の特定です。
この日付は、「買取最終月の検針日」に設定されており、新買取事業者はSW開始申請の中のSW希望日を、この検針日を基準に設定しますので、「FIT期間満了日」は大変重要な情報となってきます。

この満了日は設備認定書やFIT契約書に記載されているものですが、さて、卒FIT以外のことで考えてみてください。
家の建築確認書がすぐに出てくるでしょうか。生命保険の保険証書がパッと出てくるでしょうか。
「どこどこにしまってある」というのは頭に浮かぶでしょうが、そこに入っていなかった時には次の一手が困るでしょう。
また仮に書類一式が見つかったとしても、的確な書類を選別することができるでしょうか。「FITとは何ぞや」ということから理解している人も少ない状況で、そんなことができる人はごくごく少数派だと思っておいたほうがよさそうです。

なお、この状況も公平性に欠けると判断されたのでしょう。こちらも、制度として、現契約事業者は、4~6ヶ月前に通知書を送付することとなりました。SWするための情報は基本的にこの通知書によってカバーされるとのことですが、はがきサイズの通知書であれば、ほとんどの方が気に求めず、中には捨ててしまう人もいるかもしれません。新買取事業者としては、「興味がない人の掘り起こし」こそビジネスの源泉になるわけですから、こちらも結局は同じ結果になる算段が大きそうです。


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出展:第41回スイッチング支援に関する実務者会議 資料3  「低圧FIT卒業電源の対応」に対するご意見等について



第41回スイッチング支援に関する実務者会議 配布資料|各種委員会・検討会|電力広域的運営推進機関ホームページ


何重にも策を講じる負担がのしかかる新電力




このように新買取事業者となる新電力は、やっと見つけたビジネスターゲットも、必要な情報を確認できるエビデンスがないがために、取りこぼしもあると考え、それらを防止するための予めの計画とそのリカバリー策を準備しておくほうがよいでしょう。


例えば、送配電エリアごとの通知を入手し、その書式を説明したマニュアルを販売員に配布・教育する、通知を紛失してしまった顧客への対応方法として何を確認しどのような情報を取得するかの手順を整える、などです。
卒FITは現地で卒FITかどうかを確かめる必要があり、それはすなわち現地に赴く人員が必要なビジネスです。しかし、現地に赴く方のすべてが電力ビジネス、ましてや旧一電からの通知内容に明るいわけではないため、その点を補完するための教育等は丁寧して、しすぎることは無いでしょう。

このような負担が旧一電に比べて増えるわけですが、逆に現地に赴くネットワークのない旧一電はそのあたりについてどう出てくるかが注視されるところです。



次回は「顧客獲得後の課題」をご説明します。








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