ここまで卒FITの戦略面、オペレーション面を見てきましたが、今回は「販売促進面」をフォーカスしたいと思います。






卒FITのビジネスボリュームはそれほど大きくない


一部のニュースや、買取メニューを先行発表した事業者によって、非常に卒FITビジネスが盛り上がっていると思われると思いますが、実はその中身は非常に厳しいと言わざるを得ません。その最も大きな理由は、「想定される獲得ボリューム」です。
こちらのアンケートをご覧ください。

 
「卒FIT」の認知度は7割、自家消費より「売電」望む



ここでのアンケートでは、「FITプログラムが今年の秋から順次終了していき、そのために新たな買取先を検討しなければならない」ということを内容まで含めて知っていたという方が約38%、見聞きしたことはあるという方が約35%の合計約7割の方が卒FITについて認知をしている、としています。

このアンケートや数字を基に話を進めると、次に気になるのは、卒FIT買取サービスについて「認知」から「実際の行動」へと移す方がどれほどいるのか、となるでしょう。これを推察するためには、2016年からの電力・ガス自由化の認知度とその後のSW数が同じエネルギー分野として、似た事例として良いベンチマークになると思います。


こちらのアンケートもご覧ください。




認知度が8割超でも、自由化後の約3年間で「実際の行動」へと移しSWされた方々は、電気20%、ガス10%とのことですので、単純割りで1年につき電気約7%、ガス約3%となります。ガスはガス導管が敷設されているエリアにお住まいの方しかSWができないために少なく出ている可能性がありますので、電気のSW:3年で2割、1年で7%という数字を採用します。

卒FITも約7割の方が認知はされていますので、電力・ガスの自由化の認知度と同等とみなします。そして、同様に2割の方がSWされるとすれば、

 
   「卒FIT対象者数:56万件 × 7% = 約4万件」

 
となります。3年継続したとしても12万人です。
※2019年の56万件に加えて2020年度以降に毎年15万~30万件の卒FIT対象者が増えることは考慮せず

旧一電の10社に加えて、新電力から名乗りを上げる買取事業者を合わせた20社はくだらないであろう買取事業者でこのパイを取り合うことになるわけです。このことから、何千万件の需要家数が母数であった、電力・ガスの小売ビジネスとは一つも二つも桁が小さなビジネスであることを認識することが第一歩となります。




しかし蓄電池メーカーからすれば小さくないビジネス



さて、この1年で4万件、3年で12万件という数字を蓄電池ビジネス側から見ていくとどうでしょうか。そのためには、現在の日本の家庭向け蓄電池の出荷台数の数字と比較することでどのぐらいの規模なのかが分かると思います。JEMA(日本電機工業会)が毎年統計を発表している「定置用リチウムイオン蓄電システムの出荷実績」では、2011年度~2017年度の出荷台数累計は約18万台です。また2017年度単年では約5万台となっています。



Lib(1)



出典:定置用リチウムイオン蓄電システムの出荷実績2011年度~2017年度(https://jema-net.or.jp/Japanese/data/jisyu/pdf/libsystem_11-17.pdf)

この数字から分かるように、日本の蓄電池ビジネスはまだまだ黎明期であり、ここ数年でやっと数万台/年の出荷が出るようになったことから考えると、卒FIT対象者に蓄電池を販売しようという狙いは、蓄電池メーカーにとっては小さなビジネスではありません。1年でSWするであろう4万件の家庭の半分が蓄電池を入れたするならば2万台。これは2017年度の約4割を占めるボリュームであり、この台数は今まで苦労をしてきた蓄電池メーカーからすればオイシイ新規需要です。さらにこれらは、嫌がられるところに足繁く通い詰めやっと購入頂くスタイルではなく、卒FITとなり買取価格が下がって困っている人をサポートするという、どちらかと言えば感謝される立場で蓄電池を販売できるという願ったり叶ったりのポジションとなります。


よほど酔狂な方しか導入しなかった蓄電池が、家庭に1台導入することがフツーなことになる、このパラダイムシフトは、蓄電池メーカーにとっては大きいイベントとなりますし、なることを大きく期待されているのもうなずけます。


ただし販売のボトルネックは別のところ・・・誰が卒FITになるか


実は個人的にはここが最も大きなボトルネックになると思っています。正確な統計を取ったわけではなくサンプル母集団からの推計ですが、「卒FIT」のユーザー像の7〜8割はほぼ「オール電化住宅」です。しかも、3.11大震災が起こる前の、非常に安いタリフのオール電化メニュー。さらに10年前は旧一電が躍起になってオール電化住宅を増やそうとしていた頃にちょうど重なるため、安いタリフに対してさらに割引が付いているケースも少なくありません。要するに、今の市場環境から言えばありえないほど安い小売価格なのです。

「ですが、これは小売側のタリフでしょう?卒FITは余剰売電側なのでは?」と思った方もいるでしょう。それは確かにその通りなのですが、新電力にとっての卒FIT獲得とは、「小売側の新規獲得・囲い込み」と密接につながっているため、そう簡単には切り離せないのです。現在、卒FITビジネスに参入すべく準備をしている新電力の多くは、「卒FITの余剰売電買取」と共に「蓄電池導入」、そして本業の「小売供給の獲得」をセットに考えています。「ウチに売電してくれたら旧一電よりも少し高く買い取りますよ、そして電気も安く使えますよ、だからウチの小売を契約してください」という謳い文句を使いたいのです。

ですが、オール電化+割引の小売価格に勝てるような価格提示は、今のJPEXの価格推移を見る限り、ほぼ不可能です。たとえ蓄電池を上手く運用し、さらに蓄電池の自家消費に課金できるという好条件が揃った場合でも、

 ・ひと月の使用量が1000kWh前後
 ・昼間の電気使用力が極端に少なくなく(夜間に偏っていない)
 ・6kW以上のPVが搭載
 ・PV劣化があまりない状態で発電している

というかなりググっと狭められたターゲットしかいないのが現状です(独自試算より)。それぐらいオール電化+割引というのは強烈な価格競争力があるのです。

そのため、いくら卒FITビジネスの準備を整え、顧客獲得のハードルを乗り越えたとしても、ビジネスの根幹である「ユーザーへの経済的メリット」を提供する術を、相当程度作りこまない限りターゲットユーザーは新電力側に向いてくれません。価格競争力を高めながら、別の切り口でターゲットユーザーが振り向いてくれるという、相反することを両立させる商品設計が必要であることが、最も大きなボトルネックになるだろうと言っているゆえんです。



すんなり考えれば蓄電池は旧一電が扱うべきだが・・・


一方、オール電化+割引の小売供給側の価格を維持しながら、卒FITの余剰売電買取をできるポジションに居るのが、旧一電の小売部門です。今までの小売側の契約をなんらいじること無くそのままに据え置き、余剰売電の契約を巻き直せば良いのですから、理屈で言えば簡単な話です。しかも、上手く行けば蓄電池も売れるかもしれない、というビジネスの拡張性もあり、旧一電が保有する卒FITの全ユーザーのリストがあれば、蓄電池メーカーは喜んで支援をしそうなものです。

ですが、一方で旧一電としては「できるだけ送配電網を流れる電気の量を減らしたくない」という思惑があります。なぜなら、東京電力以外はまだ法的分離をしていないからです。小売部門も送配電部門も、まだ同じ船に乗りあわせているために、「卒FITユーザーに対して、バンバン蓄電池を売っていくぞ」という会社としての方針は決めづらい、いや、決められないのが現状です。蓄電池を導入すれば、それはそのまま、送配電部門にとっては電気の流通量減になり、小売部門に取っては小売供給量の減につながる。自分で自分の首を締めるようなビジネスはできないからです。

法的分離をしており、今や完全に経営が分離している東京電力の小売部門(東電EP)でさえ、送電網の流通量をできるだけ減らさないために、余剰電力の送配電網への逆潮流を「仮想的に蓄電した」とみなすサービスの実証実験をやっているぐらいです。これぐらい電気の流通量を減らすというのは、旧一電に取って恐怖を感じる所業なのです。


エネルギーとIoT技術を活用した「次世代スマートタウンプロジェクト」について|プレスリリース|東京電力エナジーパートナー株式会社


この点は、まだ新電力がつけいる隙が有る部分でして、今後夏から秋に掛けての卒FITサービスのプレスリリース時には、思いもよらなかった、経済性メリットだけではない新しいコンセプトのサービスが出てくるでしょう。








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