前回は、4月末に発表された旧一電の仮想蓄電サービスの真相を探るべく、まずはその対抗馬となるBattery as a Service(BAAS)の詳しい解説でした。需要家に請求できる金額と、調達する側の金額を弾いたところ、これらのサービスをおこなう新電力としては決して楽な商売ではなく、BAASを展開する際には「蓄電池からの自家消費にも課金」することでやっと成り立つというビジネスモデルでした。ただ、ここまでやったとしても今まで低調であった家庭向け蓄電池の拡販ができるでろうこと、また蓄電池を設置したならば、そのあとのVPPビジネスへの展開も見込めるということで、新電力各社は躍起になって新サービスの開発を急いでいます。しかし、旧一電が発表した「仮想蓄電サービス」は大きな脅威になると思われます。その理由を今回は深掘りしていきます。



できるだけ蓄電池を置きたくない旧一電


そもそもなぜ旧一電は「蓄電池を設置しない」というサービス形態を選択したのでしょうか。その答えはビハインド・ザ・メーター(BTM)という言葉にあります。BTMは、すでに自由化されている国々の電力市場で、数年前から言われ始めた言葉です。BTMは名前の通り、「メーターの後ろ」、すなわち送配電事業者が設置する電力計メーターから家側での「閉じた環境での電力の融通」のことを示します。

電気事業法でも定められているように、送配電事業者の責任範囲は「電力計メーターまで」となっており、その先の「家側」に関してはノータッチになります(一部アンペアブレーカー等はありますが計量には関係ないためここでは無視します)。すると、電力計メーターでちゃんと計測することを邪魔しない限り、家側で何をしようと自由になります。その家側の電力のやり取りの代表格が「太陽光発電からの自家消費」。こちら計量に関しては送配電事業者は何も感知せず、またしようと思っても感知できない状態にあります。

ここに「蓄電池」という新たな要素が加わると、余剰発電電力さえも貯めて、必要なときに取り出す、というBTM=家側のやり取りだけで電力使用が完結してしまいます。たまに太陽光発電、蓄電池でもBTM側でまかないきれない電気は送配電網から購入することになりますが、この時の計量にだけ送配電事業者が登場するという、非常に出番が少なくなってしまうのです。


需要家から見れば、「送配電網だろうかBTMだろうが、使う電気にお金を払う」ことは変わりないのですが、このポイントこそが送配電事業者≒旧一電が恐れるポイントです。なぜならば「送配電網を通る電力流通量が減る」ということは、託送料が減る=送配電事業者の収入が減ることに直結し、それは必要な設備投資ができないばかりか、事業として赤字に陥る可能性をはらんでいるからです。

だから、旧一電は基本的には、BTM側の電力を増やす行為、近年であれば「蓄電池を設置する」ということに関して大きな忌避感を持っています。その忌避感が今回の「仮想蓄電サービス」につながっています。



仮想蓄電サービスを需要家の目線で見ると「超割安」



では需要家の目線でこの仮想蓄電サービスを見るとどうでしょう。現在(2019/05/03)のところ、サービスの詳細を発表している四国電力を例に取ります。



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四電も「卒FIT」買取メニュー公表、「仮想蓄電サービス」の詳細も





四国電力のサービスでは、「毎月150kWh」まで仮想蓄電ができるとなっており、これらは月々の請求料金から「割引」という形で精算されます。この150kWhが満額割り引かれた時の計算をしてみると、



  ①月間使用量 800kWh


  ②料金単価 25円/kWh


  ③仮想蓄電 150kWh



本来の請求金額は①800kWh×②25円/kWh=20,000円です。ここで仮想蓄電分を料金割引は、③150kWh×②25円/kWh=3,750円となり、割引後の請求金額は16,250円となります。月々3,750円×12ヶ月が10年続くとすると、450,000円となります。

これを蓄電池設置時と比較してみます。現在主力の蓄電池は6kWh程度ですので、これを毎日フル活用したとしても6kWh×30日=180kWh/月が蓄電池からの自家消費の上限量になります。また現在の購入・設置費は22万円/kWhですので、6kWh×22万円≒約130万円。これではいくら月間180kWhのフル運用をしようとも、現在の料金単価ではモトがとれそうにありません。これは四国電力の「最大150kWhまで蓄電できる」というものと比べると蓄電容量は20%多いものの、実は「購入・設置費」を考慮すると大赤字になります。逆に言えば、この仮想蓄電サービスは、蓄電容量は20%少ない≒4.5kWh相当の蓄電池を購入・設置した時と同等の月々の経済性メリットを、「初期投資無し」で需要家に還元できるということです。

需要家目線で考えれば、経済性のメリットは非常に大きいといえます。



「余剰買取」だろうが「仮想蓄電」だろうが単なる逆潮流



では、今度は事業者側の目線で、「仮想蓄電とはどんな仕組みなのか?」を考えます。


物理的な側面で見れば、太陽光発電で発電され、自家消費しきれずに余剰電力となった電気は、余剰買取と計測される分なのか、仮想蓄電とみなされる分なのかは関係なく、送配電事業者の設置する逆潮流メーターを通り送配電網に返っていきます。この「関係なく」というところがポイントであり、この逆潮流メーターで示した計量値が事業者にとっては「逆潮流量=余剰電力買取の量」となります。そして、前回もご説明をした通り、余剰電力買取をした電気は、その30分間で供給される電力量に対する調達量に参入されることになります。そのため、「30分間」という断面では、仮想蓄電を意識することはありません。その30分ごとに、供給量と調達量のバランスを取るだけです。

・・・なのですが、ここで余剰電力量が想定以上に多い場合、供給量に対して調達量が過剰となりインバランスが発生し、小売電気事業者の利益を損ねてしまいます。これは旧一電に同じことが言えるのですが(実は法的分離前のみなし小売はインバランスが適用されずこのケースに当てはまりませんが、ここでは2020年以降の話に焦点を当てます)、ここで効いてくるのが「規模」です。


旧一電は、なんだかんだと新電力を遥かに凌ぐ規模=需要家数を持っています。そのため、多少余剰電力が想定以上に多くなったとしても、それらのインバランスを無視できるほどの供給量を誇っていますので、十分事業採算を保つことができます。かつ調達側を考えてみても、旧一電の発電事業者とのスムーズな連携により発電出力を抑制し(しかも余剰電力買取の7~8円/kWhよりも高コストな電源からカットできるため利益も増える)、調達量をコントロールできるす術も持っているところが、新電力とは大きな違いになってきます。それどころか、1日の需要カーブを考えると、需要が多くなる昼間はちょうど太陽光が発電をする時間帯(8時~16時)でもあり自家消費を促しピークカット、余剰買取により調達電源を確保できるためその他の調達量も減となるため、「需要の平準化」ができることで、さらなる事業収益をももたらすことになる可能性もあります。

この「規模」や「調達量の調整」というキーワードは、当面は新電力が太刀打ちできない大きな壁であるといえるでしょう。




夏と冬の需要カーブの違い|でんき予報|東京電力




なお、上記の仕組みからすると「仮想蓄電」と見なされた逆潮流分は実は単なる割引になります。決して送配電網から「仮想的に供給」することにはならないため、需給バランシング上も影響が無いからです。そのため事業者の目線で言えば、「請求時に忘れずに割引を適用しよう」ぐらいのレベルの運用になるということです。

余剰発電のインバランスを吸収できる規模を持ち、さらに調達側・発電側のメリットもあり、「単に割引が一つ増えた」というレベルの運用で収まるという、旧一電にとって非常に強力な武器が「仮想蓄電サービス」というわけです。



ビハインド・ザ・メーターを挟んだ攻防戦



こうして分解していくと、「仮想蓄電サービス」というのは旧一電の規模だからこそできるサービスであり、かつ内容も非常に優れたものであると言えます。少なくとも、蓄電池の単価がグローバル標準である金額=経産省の目標値9万円/kWhにまで下がらない限り、経済性メリットでは太刀打ちができないでしょう。まず普通に経済性の計算を軽くするだけでも、蓄電池を置くことがどれだけコストがかかることなのかが一目瞭然なのですから。

しかも、そのサービスは「送配電網も電力流通量を減らすな」という法的分離後もホールディングス制を取る旧一電の思惑とも一致しており、各社はサービスの中心に据えてくるものと思われます。また規模を考えると、新電力は対抗する類似のサービスを提供することは厳しく、できたとしても新電力Top2~3社ではないでしょうか。



ですが、それらをわかった上で新電力各社は「蓄電池を設置する」方向で活発に動いています。そこには電力計を境目にした「できるだけ送電網を使わせたい」旧一電と、「できるだけBTMを増やしたい」新電力の戦いがあるからです。またその先のVPPビジネスももちろん見据えています。現時点での経済性メリットは仮想蓄電サービスに軍配が上がりますが、経済性メリットだけでは動かないのが人間の性でもあります。また、リアルに蓄電池を設置することで得られるメリット、例えば災害時の電力供給や設置をしたという安心感、満足度などもあります。このあたりは新電力各社のマーケティングの腕の見せ所ではあると思いますし、あれだけの規模を誇る旧一電が持つ弱点でもあります。

圧倒的な規模があるからこそできる仮想蓄電サービスですが、ここからの新電力の巻き返しには注目です。









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