★VPPを考えていくと電気を直接売買したくなる



VPPを志向する事業者が、ビジネスモデルや事業収支を考えていくと、どうしても「電気を直接売買する」というところに行き着きます。

なぜならば、


・VPP事業者はあくまで「発電事業者」の位置づけであり、商売相手はTND(送配電事業者)
・そのためVPP事業者が「小売」ビジネスに関して直接需要家に接することはない。
・ただしVPP事業者はリソースを各所に設置しており、それは需要家とダイレクトチャネルを構築していることになる


という理由から、「せっかく作ったダイレクトチャネルを活かしたい」と考え始めるのは至極当然のことでしょう。もちろんダイレクトチャネルがあれば、なんでも売ることはできるわけですが、VPPというエネルギービジネスをやっている限り、ど真ん中のビジネスである「電気を売る=小売」をしたくなるというわけです。


ですが、これは日本に限らず「電力の小売」は小売電気事業者(Retailar)のみが許されているビジネスであり、ここにライセンスもなく参入することはできませんし、託送供給契約も結んでいないのに勝手にスマートメーターの計測値を使い請求行為をおこなう事自体がペナルティの対象となってしまいます。

結局は電気事業法という枠組みの中で、さまざまな制限がかけられた上で限定的なビジネスをするしか選択肢がないわけです。



★それであれば、託送供給契約なしに取引しようよ





ですが、それで黙っているVPP事業者側ではありません。これから法制度を整備していくビジネスなのであれば、できるだけ自由にビジネスができるように提言をしていこうぜ、と前向きなスタンスで様々な実証実験をやりはじめました。

それがP2P(ピア・ツー・ピア)取引であったり、ブロックチェーンを使った取引になります。これらの概念は後ほど説明しますが、P2Pおよびブロックチェーンというのは、基本的に「電気事業法の枠組み」から抜け出そうとするベクトルに向かっています。というのも、今まで電気事業法の中では、「取引」という類のものは送配電事業者が一元管理をし、その諸元情報を基に小売事業者が請求行為をおこなっていましたが、それを完全に排除して「自分たちだけで取引管理しようぜ」というコンセプトが根底にあるからです。


既存の取引の中では、送配電事業者が下記のような項目を管理しています。

・送配電網から需要家に流れた電力量(使用量)
・電力量を軽量するメーター
・メーターから情報取得するネットワーク
・メーター計測の使用量を基に作られる使用量データ


もちろん、送配電事業者としては他にも受変電設備や引き込み線など様々な管理をしていますが、「小売」というビジネスには上記を管理します。これは何を意味するかというと、ビジネス上の「台帳」を管理しているに過ぎません。台帳というのは「誰が、どこで、いつ、どれだけ電気を使ったか」という管理です。そしてこれら台帳の情報を諸元として、小売事業者は使った人=需要家に請求行為をおこなっています。


ですが、P2P取引においては、この台帳管理を送配電事業者を中抜きして、VPP事業者だけでやってしまおうと考えているのです。




★安価にセキュアに実現できるブロックチェーンに期待




この独自の台帳管理を安価に構築でき、正確性を担保し、かつセキュリティに優れていると期待されているのが、ブロックチェーンという技術になります。

ブロックチェーンは「ブロック」と呼ばれる、手書きの台帳で言えば1行単位のデータを、連続的に追記していきます。またその追記時にはタイムスタンプをつけ「いつ」が名確認なるように、また技術的に一度ブロックが記録されたら改ざんがされないような仕組みになっていると言います。この技術はもちろん皆さんご存知の通り、ビットコイン(仮想通貨)の実現技術として採用され一時は話題になりました。

このブロックチェーンという技術を使い、電力取引を管理することで、これまで台帳管理を行っていた送配電事業者を中抜きしてビジネスをしたい、というのがVPP事業者を始め、電力のP2Pプラットフォーマーを狙っている事業者の目的です。

ちなみに台帳管理をシステム化して管理するのはすでに現代の企業はやっています。今や会計や財務は、すべてデータ化されています。だったら、まだ確信が持てない新しい技術なんか使わずともできるんじゃないの?と思うのが普通です。ですが、既存のIT技術で実現できない理由がいくつかあります。

まずはITシステムの柔軟性が低いこと。いち企業の中で閉じた管理であればなんとかなるのですが、それが複数の企業にまたがって管理をし、しかも数秒単位の膨大な数の電力取引を記録する柔軟性を持ち合わせていないのが実情です。ただでさえ、グループ会社の決算情報をまとめて連結決算を作るだけで徹夜したりしているような台帳管理システムが、数十社下手すると数百社にのぼる事業者を取りまとめるプラットフォームにはなりえないだろうということです。

また、仮にそれが構築できたとしてもシステム構築費用が非常に大きくなるということ。これも大きなボトルネックです。これまでの送配電事業者のシステムは総括原価の中で、重厚長大なシステムを作ることが可能でした。ですがそのシステムでさえ、300社(登録は500社)にのぼる小売電気事業者を捌くとなると汲々しているのを見る限り、同じレベルの投資をしたとしても満足いくものは作れないのでは無いかと思います。

これらの理由から安価に、セキュアで、目的を達成するブロックチェーンと言う技術が期待されています。そしてその期待は、VPP事業者だけではなく、これまで重厚長大なシステムを作ってきた旧一電陣営にさえ及んでいます。




★ではP2P取引はいつ頃になるのか?



これだけ期待されているブロックチェーンですが、日本でビジネスを開始できるのはいつ頃か?という話に興味を移しますと、これはまだまだ先、個人的には5年後ぐらいではないかと思います。なぜならば、やっとMETIの研究会でP2Pに関する議論が始まったのが2018年10月。これまでに7回議論をされていますが、これらが制度かするには、委員会となり、法整備までと考えるとやはり5年ぐらいかかるのではないかと思うからです。




次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会 (METI/経済産業省)




ただし、早期の法制度整備が期待される向きもあります。UKでは2018年にVPPが始まりましたが、2019年~2020年までには法制度が整えられ、P2P取引がVPPに組み合わせて始められるようになるという状況です。これはやはりVPPビジネスというものが、P2P取引が実現できなければ、本来の目的である分散型電源社会の実現の威力が半減するという証明でもあると思います。実際、UKではスコットランドの北の端、オークニー諸島やシェットランド諸島にて、VPPに加えてP2P、さらにはそれらの取引をすべて再生可能エネルギーで賄う、という国を挙げての実証実験が進行中です。



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写真:2019年5月撮影、オークニー諸島カークウォールでの実証実験サイト(テスラパワーウォールが設置され、実際に人が住んでいます)


日本でも、各社での実施レベルですがP2Pやブロックチェーンの実証実験は盛んですので、UKのスピーディーな状況を日本も追随するのであれば早期、2021年頃からのP2P取引が解禁されるかもしれません。






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