入札後は自動的に処理される



前回は、需給調整市場に参加するプレイヤーが使うシステム(プラットフォーム)と、それらシステムを使う業務の大まかな流れ、特に事前の単価登録をして入札待ちになるところまでをご説明しました。今日はその続きで、入札後のオペレーションです。

下図を御覧ください。事業者からの入札後の約定処理です。


yakujou



出典:第11回 需給調整市場検討小委員会 資料4-2-2   (参考資料)需給調整市場について



この図から見て取れるように、約定はメリットオーダー=⊿kW価格の安い順に落札するように自動処理がなされます。この約定処理には、「自動処理」という点が違和感があるかもしれませんが、現状のJEPXもほぼ自動と言って良い約定方法ですし、何より中給システムがほぼ自動化されているためTSO側にとっては今と何ら変わり無い仕組みとなっています。

現状、中給システムというのは、原則保有する調整電源とオンラインで接続されており、大きな事故や発電所の緊急停止(トリップ)がない限り自動的に処理がなされています。よほどのことがない限り人手が入ることはないと思って良いでしょう。このIT化という点は、自由化で参入してきた発電事業者とは大きな違いとなっています。



約定後は事業者に対して一報が入る仕組み



約定が決まったあとは、需給調整市場システムから応札した事業者に対して約定価格・約定量・約定電源等の連絡が入ることとなっています。



tsuuchi





出典:第11回 需給調整市場検討小委員会 資料4-2-2   (参考資料)需給調整市場について


この時点で⊿kWhの価格に対する対価は確定です。もし供出量(kWh)がゼロであったとしても、⊿kWに対する対価は後日支払われることとなります。

この⊿kWhへの対価ですが、考え方としては容量市場の「出力に対する対価=Capacity Cost」という点ではよく似ています。それを実際に使おうが使うまいが、TSOとして「調整力として必要」という認定を受けたからには、その設備と出力を維持することにはお金を払うよ、だからこれからも維持をしてね、という意図での対価支払となります。


約定後は「指令への追従性」が求められる




約定後は簡易指令システムなどを通じて、供出量の指令がTSOから事業者に向けて発せられます。その時に重要になるのが「追従性」と呼ばれるもの。約定結果の範囲内で、TSOからは様々な指令が発せられるため、その指令通りに出力し系統へ電力を送ることとなります。


追従性とは、


 ①応動時間:
 出力指令値まで、規定の応動時間内に到達する

 ②継続時間:
 出力指令値が同じ値で継続する場合には、規定の継続時間”以上”にその出力を維持する
 →継続時間を超えても、可能な限り維持することが望ましい


 ③追従性:
 指令値通りの出力量・指令値ゼロへの対応・変化への対応を行う



という大きく3つの点から定義されています。
詳しくはこちらの資料の例示を御覧ください。



Tsuijuu




出典:第11回 需給調整市場検討小委員会 資料4-2-2   (参考資料)需給調整市場について


いろいろと細かい点はこれから公表されていくと思いますが、要するには簡易システムからの指令を確実に再現できる出力コントロールが必要ということです。それらのシステム仕様は今後公開されていくこととなりますが、重電メーカーの協力のもとフル自動化を推進してきたTSOと、自由化で参入した新規事業者(VPP含む)では、それらの指令値追従の仕組みの構築のノウハウ、またITシステムに投資できる資金力の差がありますので、この点は需給調整市場のオープン後にコンフリクトの一つとなるでしょう。「そうは言ってもTSOのようにお金をかけられない」と落とし所を探すのか、TSOのやりやすいようなシステム仕様として、結果的に資金力のある旧一電の電源だけが残ってしまうのかは今後の議論次第でしょう。



指令値に基づいて供出されたkWhにも対価は支払われる



約定した時には⊿kWだけではなく、実際の電力量:kWhにも単価を設定しています。この単価は、TSOからの指令に基づき出力した電力量:kWhに乗じて精算されることとなります。これが「発動に対する対価」となります。⊿kWhが設備維持のための出力に対する単価だとすれば、この発動に対する対価は、まさにJEPXや相対契約の中で売買している電力量への対価となります。


ただし、先の追従性にあったように、約定はされたものの「指令値ゼロ」ということもあり得るわけでして、その場合はせっかく準備していたにも関わらず(実際に電力量は発生していないが)その分は機会損失となるわけです。また、この状況はまれというわけではなく送配電網の状況によっては、大いに発生する可能性があるとされていますので、応札する事業者はこのリスクを加味した単価設定をしなければなりません。

なお、個人的にはこれらの指令値ゼロという肩透かしを食らった場合の代替策としてP2P取引は大いに可能性があると思っています。約定された時点で出力としてはTSOからの指令に備えているはずで、電源としては出力に余裕があります。追従性というのは、指令が出された時間の各コマ(30分1コマ)のkWhの値で評価されるため、1コマの中で、「TSOの指令を待っている期待値」と「TSOからの指令値が守れなかった期待値」と「P2Pで取引した時の期待値」の3つを比べて、どこかで交錯するところがあってもおかしくはありません。その場合、事業者はあくまで利益追求の営利企業ですので、TSOからの指令が守れなくペナルティを課せられたとしても、P2P取引をしたほうが利益は高いと判断すればその取引に切り替えることも十分予想されます。

ただし、送配電網全体のバランスとしてはもちろん崩れますので、TSO側の安定供給という点から見るとよくありません。ですので、大きな可能性を秘めたP2P取引が悪者にされないように、できるだけ指令値ゼロを少なくし事業者のビジネスを守る制度・仕組みになって欲しいと願うばかりです。



⊿kWとkWhの単価を分けることへの懸念点



もう一つ懸念点がありまして、それは⊿kWhとkWhの単価を分けている点です。これらはドイツやオーストリアなど「北ヨーロッパ」と呼ばれるエリアで採用されている仕組みですが、下記の記事によれば、事業者側はできるだけ⊿kWhの価格を下げ約定を狙い、kWhに高めの単価を設定することで回収をしているというものです。


Bidding Strategies in Austrian and German Balancing Power Auctions - Advanced Science News



確かに約定されなければ、事業者としての需給調整市場でのビジネスは始まらないわけですから、これらの手法は当然考えられるはずです。しかし、あまりに⊿kWとkWhの単価がアンバランスな場合は、「送配電網の調整力を競争市場にすることでコストを抑える」という大きな命題が崩れてしまいます。

もちろん、こういった他国の先進事例=課題が分かっていますので、日本の制度設計でも考慮されるでしょう。何にせよ、送配電網という公共財に近いものを対象としたビジネスになりますので、事業者の利益は考えつつも、公明正大で抜け道の無いビジネスができるような制度や業務仕様になることを願っています。









にほんブログ村 企業ブログ 電気・ガス・水道・熱供給へ
にほんブログ村